「人手が足りないから、通訳として雇った外国人に倉庫作業も手伝ってもらっている」
「エンジニアだけど、今は工場ラインに入ってもらっている。研修だから大丈夫だろう」
——中小企業の現場で、こうした「ちょっとだけ」の判断が日常的に行われているといわれています。
しかし、それは犯罪になるかもしれません。
技術・人文知識・国際業務ビザ(技人国)で働く外国人に、単純作業・現場労働をさせることは「不法就労助長罪」に該当し、2025年6月の入管法改正により、罰則が「懲役5年以下・罰金500万円以下」へ大幅に引き上げられました。 会社だけでなく、指示した経営者・現場責任者「個人」も逮捕・送検の対象です。
「みんなやっているから大丈夫」「バレなければ問題ない」——その認識は2025年以降、命取りになりかねません。本記事では技人国ビザで「アウト」になる業務の境界線、「研修名目」が通用する条件、摘発される典型的なきっかけ、そして申請者と会社を守るための防衛策まで、行政書士が解説します。
2025年厳罰化!「不法就労助長罪」の最新リスク
結論
2025年6月の法改正で、不法就労をさせた雇用主への罰則が「懲役3年→5年」「罰金300万円→500万円」へ引き上げられました。会社(法人)だけでなく、指示した経営者・店長・人事担当者も逮捕される可能性があります。経営者などが逮捕された場合、業務に与える悪影響は計り知れないものになります。
解説:なぜ今、厳罰化されたのか
入管法改正の背景には技能実習生や留学生の不正就労が社会問題化したことがあると言われています。しかし厳罰化の対象は技能実習だけではありません。技人国ビザでのいわゆる「なんちゃって雇用(偽装就労)」といわれるものも完全に射程内となっているのです。
罰則の引き上げ内容
| 改正前(~2025年5月) | 改正後(2025年6月~) | |
|---|---|---|
| 懲役刑 | 3年以下 | 5年以下 |
| 罰金刑 | 300万円以下 | 500万円以下 |
誰が処罰されるのか?
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会社(法人):両罰規定により、行為者と同額(最大500万円)の罰金刑
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経営者・役員:不法就労を指示・黙認した場合、個人として懲役刑の可能性
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現場責任者(工場長・店長等):実際に外国人を配置した責任者も処罰対象
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人事担当者:ビザの種類を知りながら不適切な業務に配置した場合
「会社のせい」では済みません。あなた個人が逮捕され、前科がつく可能性があります。
「知らなかった」は通用しないことも
入管法73条の2第2項により、「在留資格を確認する義務を怠った」場合でも処罰されることが明記されています。つまり知らなかった場合であっても、知らないことに過失があれば成立するということであり、「ビザの種類を知らなかった」「現場が勝手にやっていた」言い訳は、管理監督義務を果たしていない「過失」があるとみなされ、処罰を免れない可能性が極めて高いです。経営者や人事責任者には、現場が違法行為を行わないよう監視・指導する義務があるからです。
技人国ビザで「アウト」になる単純作業の境界線
結論
技人国ビザは「専門知識・技術を使う業務」のみ許可されており、工場ライン作業、倉庫での梱包・ピッキング、店舗のレジ打ち・品出しなどの単純作業は原則禁止です。「付随業務」として認められるのは業務全体の1~2割程度までとも言われています。単純作業をある程度(4割など)する必要があるのならば特定活動46号などへの変更を検討しましょう。
解説:典型的なNG事例(なんちゃって技人国)
以下のようなケースは、入管から「実態は単純労働者」と判断され、不法就労助長罪に問われます。
NG事例1:通訳・翻訳採用なのに倉庫作業
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求人:「中国語通訳」
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実態:倉庫で梱包・ピッキングが業務の8割、たまに中国人客の対応
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判定:通訳業務の実態がなく、不法就労。
NG事例2:エンジニア採用なのにライン作業
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求人:「生産技術エンジニア」
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実態:工場ラインで組立作業のみ、設計・改善提案は一切なし
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判定:技術者のビザで単純作業をさせているため違法。
NG事例3:店長候補なのにレジ専従
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求人:「店舗マネジメント・販売企画」
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実態:レジ打ち・品出し・清掃が9割、マネジメント業務はゼロ
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判定:将来の幹部候補であっても、現状が単純労働のみなら違法。
「付随業務」として許される範囲とは
技人国ビザでも、専門業務に付随する範囲で軽作業が認められる場合があります。
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OK例:設計エンジニアの試作組立
自分が設計した製品の試作品を、動作確認のため組み立てる → 設計業務の一環として許容される可能性が高い -
OK例:通訳の接客補助
外国人客への通訳・案内がメインで、その流れでレジ操作や商品説明をする → 通訳業務に付随する範囲としてOK
許容範囲の目安
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業務全体の1~2割程度
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専門業務と密接に関連している
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日本人社員も同様の付随業務を行っている
逆に、「専門業務はほぼゼロで、単純作業が9割」という実態なら完全にアウトです。
「実務研修」という言い訳はどこまで通用するのか
結論
「研修期間中だから単純作業も許される」という認識は危険です。入管が認める研修には、①明確な期間(数ヶ月~最大1年程度)、②カリキュラムの存在、③日本人社員との同等性、の3条件が必要です。
解説:入管が見ている「本物の研修」の条件
大手の人材紹介会社には「研修ならOK」と言っているところもあるようですが、実際のところ入管はそんなに甘くないと考えた方が良いでしょう。
研修として認められるための3条件
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明確な期間設定
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「数ヶ月~最大1年程度」が限度
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入社3年目でまだ「研修中です」は通用しないと考えた方が良い
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期間終了後、専門業務に移行する計画が明確であること
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詳細なカリキュラムの存在
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「いつ(何月何日~何日)」「何を(どの工程・業務を)」「誰が(指導担当者は誰か)」
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これらが文書化されていること(口頭説明だけは不可)
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日本人社員との同等性
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「大卒の日本人幹部候補生も同じ研修を受けているか」
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外国人だけ長期間現場に放置されているなら、それは「安価な労働力」とみなされる
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入管調査で提示を求められる証拠資料
「研修です」と口で言うだけでは通じません。以下の資料がなければ、研修と認められません。
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研修計画書(期間、内容、指導担当者)
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指導日報(本人が毎日何を学んだか記録したもの)
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指導担当者の配置記録(誰が教えているのか)
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日本人新卒社員の研修実績(外国人だけ特別扱いしていないか)
これらの資料を「今から作る」のは困難です。入管調査が入る前に整備しておく必要があります。
バレるきっかけは?摘発のリアルなルート
結論
摘発の主なきっかけは、①ビザ更新時の書類矛盾、②タレコミ(退職者・同僚・SNS)、③入管の実態調査、の3つと言えます。「バレない」という保証はどこにもないことは常に頭に置いておくべきです。
解説:摘発ルートの実態
ルート1:ビザ更新時の書類矛盾
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更新申請書に「翻訳・通訳業務」と書いたが、本人が窓口で「普段は倉庫で荷物を運んでいます」と正直に答えてしまう
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職務内容と給与額(課税証明書)が矛盾(通訳なら高給のはずが、最低賃金レベル)
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所属部署名が「物流センター」「製造部」など、専門業務と無関係
ルート2:タレコミ(内部告発・近隣通報)
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退職した外国人社員が「給料が安い」「騙された」と入管に通報
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同僚(日本人または他の外国人)が不満を持って通報
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SNS(Facebook, TikTok, Instagram)に「仕事中」として単純作業の様子を投稿し、そこから特定される
ルート3:入管の実態調査
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入管職員による事業所への立ち入り調査(抜き打ち)
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電話による本人への聞き取り調査
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派遣会社への一斉調査(2024年にも大規模調査が実施されたといわれる)
「バレなければ大丈夫」という発想自体が、既にリスクマネジメントの放棄です。
リスク回避のための「防衛策」と実務対応
結論
まず雇用契約書と職務経歴書を見直し、専門業務の内容を明確化すること。現場への周知徹底と、研修計画書・日報の整備も必須です。既に長期間単純作業をさせている場合は、配置転換または特定技能ビザへの変更を検討してください。
解説:今すぐできる防衛策
① 雇用契約書・職務経歴書の整備
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契約書に「その他付随する業務」とだけ書くのではなく、具体的な専門業務内容(例:「海外取引先との折衝」「技術文書の翻訳」「生産ラインの改善提案」)を明記する
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単純作業が含まれる場合は、その目的(「商品知識習得のため」等)と期間を明文化
② 現場責任者への教育
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工場長・店長に「この外国人はライン作業員ではない」と理解させる
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「忙しいから」という理由で専門業務以外をさせない体制作り
③ 業務記録の作成
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「週に○時間は必ず事務所で翻訳・データ分析業務をさせる」といったルールの厳格化
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日報に専門業務の内容を記録し、「単純作業しかしていない」と疑われないようにする
④ 在留カードの確認の徹底
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就労可能な在留資格であるか確認:就労可能な在留資格であるか確認し、就労できる在留資格であった場合はどのような就労が許されるかも確認。
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資格外活動許可の確認:就労不可の留学などの在留資格であった場合は在留カード裏面に資格外活動許可の記載があるか確認する。資格外活動許可にも様々な制限があるのでそれについてもしっかり確認。
まとめ:甘い認識を捨て、今すぐ是正を
「ちょっとだけなら」「みんなやっているから」「バレなければ大丈夫」——その認識が、会社と個人を犯罪者にしてしまうかもしれません。
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2025年6月からの厳罰化により、不法就労助長罪の罰則は「懲役5年・罰金500万円」へ引き上げられました。
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技人国ビザは「専門業務のみ」許可されており、「研修名目」が通用するには明確な条件が必要です。
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摘発のきっかけは予測不可能であり、一度摘発されれば社会的信用を失います。
「人手不足だから仕方ない」は、入管にも裁判所にも通用しません。会社を守るために、今すぐ行動してください。
不安な方は、まず申請取次行政書士に相談し、自社の状況がどのレベルか、どう是正すべきかの判断を仰ぐことを強く推奨します。


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