最初に結論として、永住許可の審査は「加点制」ではなく基本的には「減点制」と考えるべきです。
技人国ビザのような「業務内容が合えば許可」というある意味で形式的ともいえる審査ではなく、法律上の3要件(素行善良・独立生計・国益適合)をクリアした上で、「日本に永住させて問題ない人物か」を総合的に判断されます。そのため、審査の実態は「何かマイナス要素がないか」を探す作業になりやすく、特に公的義務(税金・年金・保険)の履行状況が最大の分水嶺となります。
「10年在留」の本当の意味―単なる在留期間の長さではない
結論:「原則10年以上在留」という要件には、実は「うち5年は就労資格または居住資格で在留」という必須条件が付いています。
詳細解説
法務省ガイドラインでは以下のように明記されています。
「原則として引き続き10年以上本邦に在留していること。ただし、この期間のうち、就労資格(在留資格「技能実習」及び「特定技能1号」を除く。)又は居住資格をもって引き続き5年以上在留していることを要する。」
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留学生期間の扱い:留学生として10年住んでいても、就労資格での期間がなければ申請できません。就職してから5年経過し、合計10年以上になって初めて要件を満たします。
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技能実習・特定技能1号:これらの期間は「就労資格期間(5年)」に算入されません。
「公的義務の履行」が最大の不許可原因―「納付済み」では足りない
結論:永住審査で最も厳しく見られるのは、税金・年金・健康保険を「納期限内に」納付しているかです。
詳細解説
ガイドラインには以下の注意書きがあります。
「公的義務の履行について、申請時点において納税(納付)済みであったとしても、当初の納税(納付)期間内に履行されていない場合は、原則として消極的に評価されます。」
これは、「遅れても全額払えばいい」という考えが通用しないことを意味します。入管は納付記録だけでなく「領収日付」までチェックし、期限遅れがあればマイナス評価します。
審査対象期間の実務的目安
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年金・健康保険:直近2年間
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住民税:直近5年間
この期間内に、たとえ1回でも納付遅れ(コンビニ払いの期限切れ等)があれば、それが不許可の直接原因になり得ます。
扶養家族の適正化も重要
「公的義務」には適正な納税も含まれます。本来扶養していない海外の親族等を節税目的で扶養に入れている場合、不許可になるリスクが高くなる場合もあるため、修正申告等の対応が必要です。
「最長在留期間」の保有が申請の前提条件
結論:現在の在留資格で「3年」または「5年」の在留期間を持っていないと、原則として永住申請ができません。
詳細解説
法務省令では「最長の在留期間をもって在留していること」が要件ですが、運用上は当面の間、「在留期間3年」を有していれば最長とみなす措置が取られています。
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1年ビザの場合:まずは在留期間更新許可申請で「3年」を取得することが最優先です。1年のまま永住申請しても、要件不適合で不許可となります。
「我が国への貢献」による特例―5年在留で永住可能だが、ハードルは極めて高い
結論:「我が国への貢献」が認められる場合、5年在留で永住許可が出る特例がありますが、該当者は極めて限定的です。
詳細解説
法務省が公開している事例(平成18年公表等)を分析すると、明確な傾向が見えます。
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許可事例(貢献あり)
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科学技術研究者として多数の論文を発表し、権威ある賞を受賞(事例1)
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国際大会(オリンピック等)で入賞した選手の指導者・コーチ(事例2, 35, 36)
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大学教授として長年高等教育に従事し、研究成果が国際的に評価されている
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不許可事例(貢献なし)
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一般企業の課長・課長補佐として勤務(事例7, 8)→「会社への貢献」であって「我が国への貢献」とは認められない。
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大学助手として5年勤務(事例11)→ 顕著な功績なし。
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語学指導助手(ALT)として勤務(事例12)→ 高等教育への貢献とは認められない。
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分析結果
一般の会社員や教員レベルでは、この特例の利用はほぼ不可能と言ってよいです。客観的な「受賞」「論文」「表彰」などの証拠がない限り、原則の10年ルートを目指すべきです。
配偶者・定住者・高度人材の特例―在留歴が大幅に短縮される
結論:日本人・永住者の配偶者や高度人材など、特定の条件を満たす場合は、在留歴要件が大幅に緩和されます。
| 特例区分 | 在留歴要件 | 条件 |
|---|---|---|
| 日本人・永住者等の配偶者 | 実体を伴った婚姻生活3年以上 + 引き続き1年以上在留 | 婚姻の実体が継続していること |
| 日本人等の実子 | 引き続き1年以上在留 | 実子としての身分が継続 |
| 定住者 | 5年以上継続して在留 | 定住者の在留資格で継続 |
| 高度人材(70点以上) | 3年以上継続して在留 | 3年間継続して70点以上を維持 |
| 高度人材(80点以上) | 1年以上継続して在留 | 1年間継続して80点以上を維持 |
Q&A:永住許可でよくある疑問と実務的回答
Q1:年金を「学生納付特例」で免除していた期間がありますが、影響しますか?
A:影響する可能性があります。追納を推奨します。
審査対象期間(直近2年)に免除期間が含まれる場合、「納付実績なし」と見なされることがあります。可能であれば追納して「全期間納付済み」の状態にすることで、審査官への印象を良くすることができます。
Q2:住民税を納期限から1か月遅れで納付した年がありますが、諦めるべきですか?
A:諦める必要はありませんが、合理的な「理由書」が必須です。
ガイドラインの「原則として消極的に評価」という表現は、例外の余地を示唆していると思われます。遅延が1回のみで、その後は完璧に履行しているなら、「うっかりミスであり、現在は口座振替にしている」等の反省と改善策を理由書で説明することで、許可の可能性は残るでしょう。
Q3:高度人材ポイント80点で1年在留すれば申請できるとのことですが、80点をキープし続ける必要がありますか?
A:はい、申請時点でも80点以上を維持している必要があります。
「1年前は80点あったが、今は年収が下がって70点」という場合は、1年特例は使えません(3年特例の対象にはなり得ます)。申請時にもポイント計算を行い、疎明資料を提出する必要があります。
まとめ:永住許可の5つの鉄則
法務省のガイドラインと事例分析から導き出される「許可の法則」は以下の通りです。
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在留歴要件の正確な理解:単なる「10年」ではなく、「就労資格5年」の内訳を満たすか確認する。
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公的義務の「期限内履行」:税金・年金・保険を「納期限内に」払う。遅延歴は致命的になりかねない。
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最長在留期間(3年以上):1年ビザでは申請不可。まずは3年ビザを取る。
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「貢献」特例の難易度認知:一般会社員は原則ルート(10年)を目指す。
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申請タイミングの見極め:直近の納税・納付状況に不安があるなら、無理に申請せず「実績作り(期限内納付)」の期間を設けてから申請する方が、急がば回れで近道になる。
参考リンク集(法務省・出入国在留管理庁)
永住許可に関するガイドライン「我が国への貢献」に関するガイドライン
「我が国への貢献」に関するガイドライン[PDF : 26KB]
「我が国への貢献による永住許可・不許可事例


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