2025年10月16日、在留資格「経営・管理」に関する基準が改正され、資本金要件が従来の500万円から3,000万円へと6倍に引き上げられました。さらに常勤職員1名以上の雇用義務化など、ハードルは一気に高くなっています。
既存の経営・管理ビザ保有者にとって最大の関心事は「次回の更新はどうなるのか?」であり、その次は経営・管理ビザからの永住申請でしょう。
法務省は3年間の経過措置を設けていますが、残念ながらこれは「何もしなくていい期間」ではありません。本記事では法務省の公式資料に基づき、経過措置期間中の審査基準、3年後の世界、そして今取るべき実務対応を徹底解説します。
更新申請における3段階の審査基準─経過措置の正しい理解
更新審査は、申請時期によって明確にフェーズが分かれます。
第1段階:経過措置期間(2025/10/16 〜 2028/10/15)
施行日から3年間は経過措置期間が設けられており、新基準(資本金3,000万円等)を満たしていなくても、直ちに不許可にはなりません。以下の要素を総合的に考慮して判断されます。
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経営状況が良好であること(黒字決算、安定した売上など)
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公租公課の履行(納税・社会保険の完納)
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将来的な適合見込み(増資計画や事業拡大の蓋然性)
注意点:審査過程で中小企業診断士等の専門家による「事業評価書」の提出を求められる場合がありうると思われます。つまり、数字だけでなく「客観的な経営実態」が厳しく問われます。
第2段階:経過措置終了後(2028/10/16 以降)
原則として、改正後の新基準(資本金3,000万円・常勤1名以上等)への適合が求められます。
ただし、法務省資料には「適合しない場合であっても、経営状況が良好であり…総合的に許否を判断する」という趣旨の記載があり、一律カットではない柔軟性が示唆されていますが、ハードルは格段に上がると考えるべきです。
入管が最重視する「経営の実態性」審査
新基準下では、ペーパーカンパニーや名ばかり経営者の排除が徹底されます。
「実態なし」と判断されるリスクのあるケース
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業務の丸投げ:業務の大半を外部委託し、本人が日常的な経営判断に関与していない。
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長期不在:正当な理由なく、年の大半を海外で過ごしている(日本での経営実態がない)。
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自宅兼事務所:居住用物件の一室を事務所としており、事業実態と不釣り合いである。
「実態あり」と認めさせるための要素
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人的体制:常勤職員(日本人・永住者等)を1名以上雇用し、指揮命令系統がある。
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場所的設備:事業規模に応じた専用の事業所(看板、事務機器等)がある。
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本人の把握度:決算内容、主要取引先、契約状況を本人が詳細に説明できる。
公租公課の納付状況審査の厳格化
「更新」において最も客観的で、言い逃れができないのが納税・社会保険です。
審査対象となる公租公課(全項目完納が前提)
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国税:法人税、消費税、源泉所得税
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地方税:法人住民税、事業税
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社会保険:健康保険、厚生年金保険(経営者本人だけでなく、加入義務のある従業員分も含む)
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労働保険:労災保険、雇用保険
実務の重要点
「赤字だから払えない」「知らなかった」は通用しないと考えるべきです。未納・滞納がある場合、それを解消(完納)してから申請するか、合理的な理由と納付誓約書を添付しなければ、不許可(または在留期間短縮)になるリスクがあると思われます。
永住許可・高度専門職への影響(ここが落とし穴)
経過措置期間中であっても、以下の申請を行う場合は「新基準への適合」が必須となります。
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永住許可申請:「経営・管理」から永住へ変更する場合
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高度専門職への変更:ポイント制を利用する場合
実務上の示唆
「いつか永住を取りたい」と考えている経営者は、経過措置にがあるからと甘く見る事なく早期に資本金増資(3,000万円)や常勤雇用等の新基準クリアを目指す必要があります。更新はできても、永住申請の土俵には上がれないという事態になりかねません。
永住への影響はこちらも確認→高度専門職1号ハからの永住申請、資本金3,000万円未達だと不許可に?2025年10月改正の影響と対策
実務対応戦略─今から3年でやるべきこと、やっておきたいこと
既存の経営・管理ビザ保有者は、この3年間を「猶予期間」ではなく「移行準備期間」と捉えるべきです。
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経営の透明化・黒字化
赤字続きの会社は淘汰されると考えるべきでしょう。専門家の支援を受けるなどして経営状況を改善し、決算内容を改善し、納税できる体力をつけることが最優先で取り組むべきことです。 -
常勤職員の雇用検討
新基準の「常勤1名以上」は、経営の実態証明として強力な武器になります。日本人や永住者の採用を進め、組織としての体制を整えましょう。とはいえ信頼できる人材の獲得が難しいことは上述の通りなので、これも早い段階から計画的に進める必要があります。 -
資本金増資の計画
3,000万円への増資は容易ではありませんが、利益剰余金の組み入れや、新たな出資者の確保(注意は必要)など、長期的な資本政策を検討し、計画書を作成しておくことが更新時の説得材料になります。
よくある質問(Q&A)
Q1:赤字決算でも更新できますか?
A:単年度の赤字なら可能ですが、連続赤字や債務超過は危険です。
単年度の赤字は理由書(赤字の原因と来期の改善計画)で乗り切れることが多いですが、2期連続赤字や債務超過の状態は「事業継続性に疑義あり」と判断される可能性が高くなります。中小企業診断士の事業評価書を添付するなど、再建の道筋を示す必要があるかもしれません。
Q2:3年後までに資本金を3,000万円にできないとビザは取り消されますか?
A:直ちに取り消されるわけではありません。
2028年以降も「経営状況が良好」「納税義務を果たしている」等の事情があれば、個別に判断して更新が許可される余地は残されています。しかし審査は非常に厳しくなり、仮に更新の許可が下りたとしても1年更新となる可能性が高いと思われます。
Q3:現在、自宅兼事務所ですが問題ありますか?
A:更新審査で厳しく指摘される可能性があります。
新基準では自宅兼事務所は否定されています。できるだけ早く移転の準備を進め、更新のタイミングまでに専用のオフィスや店舗へ移転することを推奨します。
参考資料リンク集
より詳細な情報は、以下の法務省・出入国在留管理庁の公式資料をご確認ください。
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改正の概要と新旧対照表
在留資格「経営・管理」に係る上陸基準省令等の改正について | 出入国在留管理庁
(改正のポイント、いつから適用されるか等が記載されています) -
具体的な審査基準・ガイドライン
「経営・管理」の許可基準の改正等について(PDF)
(経過措置の詳細や更新時の審査方針が明記されています) -
在留資格「経営・管理」全般
在留資格「経営・管理」 | 出入国在留管理庁
(申請手続きの全体像、提出書類一覧など)
まとめ
2025年の基準省令改正は、経営・管理ビザを完全に今までのものから変質させるものでした。更新においても既存の経営・管理ビザ所持者からかなりの更新が不許可となり帰国を余儀なくされる外国人経営者が出るであろうことが予測されています。
更新審査において、入管が重視しているのは「実態ある経営活動」と「日本社会への貢献(納税)」の2点であるといえます。
小手先のテクニックではなく、王道の経営を行うことこそが、最も有効なビザ更新、そして永住につなげる対策となります。不安な点は早めに専門家(申請取次行政書士等)へ相談し、3年後を見据えたロードマップを描いてください。


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