永住権喪失のNo.1原因は実は「うっかり」です。「永住者だから、いつでも日本に帰れる──。」
実は永住者の在留資格を失う原因として最も多いのが、犯罪や素行不良ではなく「再入国許可の期限切れ」です。
特に手続き不要で便利な「みなし再入国許可」は、「出国日から1年以内」に再入国しなければその時点で永住者の地位が自動的に消滅します。
海外赴任の延長、親の介護、自身の病気など、予期せぬ事情で帰国が1日でも遅れれば、長年積み上げてきた「永住者」の地位を失うことになるのです。
この記事では、多くの永住者が誤解している「1年ルール」の落とし穴と、万が一期限を超過してしまった場合の「定住者」ビザを経由した復帰ルートについて、申請取次行政書士の実務視点で解説します。
なぜ「期限切れ」が起きるのか(典型的な3パターン)
パターン①:海外赴任・帯同で「1年」を超えてしまった
「当初は1年で戻る予定だったが、プロジェクトが延びて2年になった」
「夫の海外転勤について行ったが、帰任が延期された」
出国時には「1年以内に一時帰国すればいい」と思っていても、現地の業務や生活に追われ、気づけば期限が過ぎてしまうケースです。特に「みなし再入国」で出国している場合、海外で期間を延長することは一切できません。
パターン②:親の介護・看取りで帰国が長引いた
「母国の親が倒れた」と急いで帰国したものの、介護が長引いたり、親族間の遺産トラブルに巻き込まれたりして、日本に戻るタイミングを逃すケースです。「親のことが落ち着いたら」という人道的な理由であっても、入管法上の期限は待ってくれません。
これは帰国時に自分がケガや病気になったようなパターンもあります。
パターン③:みなし再入国の「1年」を誤解していた
最も危険なのが、「永住者は在留期限がない(無期限)だから、再入国期限も関係ない」「在留カードの有効期限(7年)までは戻れる」という誤解です。
「在留カードの有効期限」と「再入国許可の有効期限」は全く別物です。カードが有効でも、再入国許可が切れていれば日本には入れません。
あなたはどっち?通常の再入国許可/みなし再入国(比較表+セルフチェック)
出国期間が「1年」を超える可能性があるなら、必ず「通常の再入国許可」を取得してください。
【比較表】2つの再入国許可制度
| 項目 | みなし再入国許可(入管法26条の2) | 通常の再入国許可(入管法26条) |
|---|---|---|
| 有効期間 | 出国日から1年 ※延長不可 |
最長5年(または在留期限まで) ※海外で1回延長可 |
| 申請場所 | 空港(出国直前) | 入管(出国前) |
| 手数料 | 無料 | 4,000円(一回)/7,000円(数次) |
| 手続き | EDカードの「みなし再入国」欄にチェック | 入管窓口でシールを貼ってもらう |
| リスク | 1日でも過ぎれば永住権消滅 | 5年あるためリスクが低い |
【セルフチェック】一つでも当てはまれば「通常の再入国許可」を!
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海外赴任や留学で、1年以上日本を離れる可能性がある
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親が高齢で、介護のために長期帰国するかもしれない
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海外で出産・育児をする予定がある
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コロナ禍のようなロックダウンが起きるのが不安
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「1年以内に絶対に戻れる」とは言い切れない
出国前の予防策(チェックリスト)
手数料を惜しんで永住権を失うのは、あまりに割に合いません。少しでも不安があれば、迷わず入管で許可を取ってください。
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[ ] 在留カードの確認: 永住者証明書の有効期間とは別に、再入国許可が必要であることを認識する。
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[ ] 通常の再入国許可の取得: 住居地を管轄する出入国在留管理局で申請。「数次(Multiple)」を選択すれば、期間内は何度でも出入国可能。
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[ ] EDカードの記入:
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みなし再入国の場合: 「みなし再入国許可による出国を希望します」にチェックを入れる。
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通常の再入国許可を持っている場合: チェックを入れず、許可証(パスポートのシール)を審査官に見せる。
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[ ] 家族の確認: 家族が「永住者の配偶者等」や「定住者」の場合、あなたが永住権を失うと、家族のビザ更新にも影響が出ます。
期限切れ・期限超過が疑われるときの初動
もし海外滞在中に「期限が切れている」と気づいたら、絶対に焦って自己判断で動かないでください。
やってはいけないNG行動
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❌ そのまま日本の空港に向かう: 上陸拒否され、最悪の場合は退去強制(強制送還)となり、今後数年間日本に来られなくなる可能性があります。
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❌ 観光ビザ(短期滞在)で入国する: 「とりあえず観光で入って、日本で変更すればいい」と安易に考えるのは危険です。一度「短期滞在」になると、そこから「永住者」に戻すのは極めて困難です。
正しい初動ステップ
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パスポートの出国スタンプを確認: 正確な出国年月日を把握する。
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現地の日本大使館・総領事館に相談: 「再入国許可の期限が切れてしまった」と正直に伝え、ビザ(査証)申請の相談をする。
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理由書の準備: なぜ期限内に戻れなかったのか、客観的に証明できる資料(診断書、入院証明、会社からの命令書など)を集める。
リカバリーの現実的ルート:「定住者」からの再出発
再入国許可の期限を過ぎて永住権が失効した場合、すぐに「永住者」として復活することは原則できません。一般的には、以下のルートで「定住者」として日本に戻ることが一般的なルートになります。
ステップ①:在外公館で「定住者」ビザを申請
日本大使館等の窓口で、元永住者であることを理由に「定住者」の在留資格認定を求めます。
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審査のポイント: 日本に生活基盤(家族、持ち家、資産)が残っているか、期限超過の理由にやむを得ない事情があるか。
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注意点: 必ず許可されるわけではありません。生活基盤が完全に海外に移っているとみなされれば、不許可もあり得ます。
ステップ②:「定住者」として日本に入国・在留
無事にビザが下りれば、日本に入国できます。ただし、在留資格は「永住者」ではなく「定住者」です。
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デメリット: 在留期限(1年や3年)がつくため、更新手続きが必要になります。
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ローン等への影響: 永住者でなくなるため、住宅ローンの審査や契約に影響が出る可能性があります。
ステップ③:将来的に「永住許可」を再申請
「定住者」として日本での生活を再開し、一定期間(通常は数年〜5年程度、事情により短縮される場合もあり)経過後に、改めて永住許可申請を行います。
これまでの「永住者としての実績」は一度リセットされるため、基本的にまた一から信用を積み上げる必要があります。
FAQ(実務でよくある質問)
Q1. みなし再入国の「1年」は延長できますか?
A. できません。
いかなる理由があっても、海外からみなし再入国の期間を延長することは不可能です。1年以内に戻れない場合は、一度永住権を失うことになります 。
Q2. 通常の再入国許可(5年)は延長できますか?
A. 可能です(条件あり)。
病気や身体の故障など「正当な理由」がある場合に限り、現地の日本大使館等で「有効期間の延長」を申請できます。ただし、延長は1年を超えない範囲に限られ、当初の効力発生日から6年を超えることはできません(特別永住者はまた扱いが違うことに注意) 。
Q3. コロナで戻れなかった場合は救済されますか?
A. 過去には特例がありましたが、現在は終了しています。
現在は平時の運用に戻っており、単に「航空券が高い」「便が少ない」程度の理由では認められません。ご自身の病気やロックダウン等、物理的に移動不可能な事情の証明が必要ですが、その場合もかなり困難であると思われます 。
行政書士への相談時に伝えるべきこと
リカバリーの手続きは複雑で、個別の事情に大きく左右されます。専門家に相談する際は、以下の情報を整理しておきましょう。
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在留カードの情報: 在留カード番号、有効期間満了日
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出入国記録: 正確な日本出国日(パスポートのスタンプ)
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再入国許可の種類: みなし再入国か、通常の再入国許可か
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期限超過の理由: なぜ戻れなかったのか(詳細な経緯と証明資料の有無)
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日本での生活基盤: 家族の在留状況、自宅の有無、仕事の状況
まとめ:権利を守るのは「正しい知識」
「永住者」という強力な資格も、たった一つの手続きミスで失われてしまいます。
「1年以上日本を空けるなら、必ず入管で許可を取る」。
この鉄則を守るだけで、あなたの永住権は守られます。
しかし、もしあなたが永住権を失ってしまった場合、影響を受けるのはあなただけではありません。あなたの扶養を受けている配偶者や子供のビザはどうなるのでしょうか?
次回は、「大黒柱が永住権を喪失!そのとき家族のビザは?」について解説します。


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