退去強制手続と出国命令制度の改正は令和5年の入管法改正の最重要と言ってよいポイントです。今回は出入国在留管理庁のホームページの「退去強制手続と出国命令制度Q&A」を題材に、改正後の退去強制手続と出国命令制度の解説をしていきたいと思います。
なおかなり分量が多いので、複数回に分けての解説になります。
退去強制手続と出国命令制度
https://www.moj.go.jp/isa/deportation/guide/tetuduki_taikyo_qa.html出頭申告
Q1在留期限を超えて不法残留していますが、入管局に出頭して今後も引き続き日本での生活を求める手続を行っていますので、法律的には何の問題も無くなったのでしょうか。
A 出頭申告された方の中には「入管局に不法残留等を申告したので、法律的には何の問題もなくなった。法違反の状態は解消された。」と誤解される方が多いようです。
地方出入国在留管理官署に外国人の方が出頭申告しても、直ちに不法残留等の状態が解消されるわけではありません。したがって法務大臣から特別に在留が認められない限り、入管法に違反している状態に変わりはなく、原則として就労も認められていませんので、働いている工場や会社などで入管法違反により摘発されることもあります。
Q2日本から退去強制された者や出国命令を受けて出国した者が、再び日本に入国することは可能ですか。
A 日本から不法残留等を理由に退去強制された者や出国命令を受けて出国した者は、入管法の規定に基づき、原則として、一定期間(これを上陸拒否期間と言います。)日本に上陸することはできません。具体的には以下のとおりです。
(1) いわゆるリピーター(過去に日本から退去強制されたり、出国命令を受けて出国したことがある者)の上陸拒否期間は、退去強制された日から10年
(2) 退去強制された者((1)の場合を除く)の上陸拒否期間は、退去強制された日から5年
(3) 出国命令により出国した者の上陸拒否期間は、出国した日から1年
また、日本国又は日本国以外の法令に違反して1年以上の懲役又は禁錮等に処せられた者や麻薬、大麻、あへん、覚醒剤等の取締りに関する法令に違反して刑に処せられた者は、上陸拒否期間に定めはなく、日本に上陸することができません。
Q3入管局に出頭する場合には、どのようなものを準備すればよいですか。
A 出頭する場合には、旅券を持参してください。旅券を紛失するなどして所持していない方は、身分を明らかにする証明書があれば持参してください。帰国を希望する場合は、有効な旅券を持参してください。また、旅券のほかに、帰国のための航空券や旅行代理店が発行した航空券予約確認書が必要となりますが、不法残留等の状態や他の法令に違反している場合には、調査に時間を要し、事前に準備していた航空券が使用できなくなることも考えられますので、まずは、お近くの地方出入国在留管理官署に出頭した上で、お問い合わせください。
出入国在留管理庁「退去強制手続と出国命令制度Q&A」より引用
不法残留している外国人の方が出入国在留管理庁にまだ発覚していない段階で自発的に出頭することを出頭申告と言いますが、Q&Aにあるように出頭申告したからと言って不法残留が適法になるということではありません。
あくまでも退去強制や出国命令手続きの中で入管に摘発された場合に比べて上陸拒否期間が場合によっては短くなったり、退去強制手続きの中で「在留特別許可」の申請を行う場合、申請がある程度認められやすくなるということです。
日本に適法に滞在できるようになるには一度出国して上陸拒否事由の期間経過後に適法なビザを取得して入国する、上陸拒否期間内でも上陸特別許可の申請を行う、また上記の通り退去強制手続きの中で「在留特別許可」の申請を行うというような方法になります。
出国命令
Q4「出国命令制度」とは、どのようなものでしょうか。
A 出国命令制度は、入管法違反者のうち、一定の要件を満たす不法残留者について、収容をしないまま簡易な手続により出国させる制度です。
出国命令の対象者については入管法第24条の3に規定されていますが、具体的には次の全てに該当する不法残留者です。
(1) ア又はイのいずれかを満たすこと
ア 入国警備官の違反調査の開始前に、速やかに日本から出国する意思をもって自ら出入国在留管理官署に出頭したこと
イ 入国警備官の違反調査の開始後、入国審査官の違反審査により退去強制事由に該当する旨の通知を受ける前に、速やかに出国する意思があることを入国審査官又は入国警備官に表明したこと
(2) 不法残留以外の退去強制事由に該当しないこと
(3) 窃盗罪等の一定の罪により懲役又は禁錮に処せられたものでないこと
(4) 過去に本邦から退去強制されたこと又は出国命令を受けて出国したことがないこと
(5) 速やかに日本から出国することが確実と見込まれること
Q5「出国命令制度」の適用を受けることを希望する場合は、どこに出頭すればよいのですか。
A 出頭者に対する違反調査は、原則として8か所の地方出入国在留管理局(札幌、仙台、東京、名古屋、大阪、広島、高松、福岡)又は3か所の地方出入国在留管理局支局(横浜、神戸、那覇)で行いますので、平日の執務時間内にこれらの地方出入国在留管理官署に出頭してください。
なお、上記以外の地方出入国在留管理官署に出頭した場合は、出頭者に対して出頭確認書を交付し、上記の地方出入国在留管理官署への出頭日時と出頭場所を指示します。
Q6出国を希望する空港にある出入国在留管理局に出頭しても良いのでしょうか。
A 空港にある地方出入国在留管理官署に出頭した場合でも出頭確認書は交付しますが、違反調査等にある程度の時間を要しますので、原則として、出頭した当日に出国することはできません。そのため、出国命令を受けて出国したい方は、あらかじめ8か所の地方出入国在留管理局(札幌、仙台、東京、名古屋、大阪、広島、高松、福岡)又は3か所の地方出入国在留管理局支局(横浜、神戸、那覇)において所定の手続を受けてください。
Q7出頭してから、出国命令を受けるまでには、おおむねどのくらいの時間がかかると考えたらよいでしょうか。
A 出頭された方の状況(旅券の有無など)にもよりますが、地方出入国在留管理官署に出頭してから出国命令書の交付を受けて出国するまでに概ね2週間程度の日数を要するので、帰国用の航空券等を予約する際には注意してください。
Q8過去に退去強制歴のない外国人が、不法残留容疑で摘発された場合、「出国命令制度」の適用を受けることができるのでしょうか。
A 不法残留容疑で摘発された場合であっても、入国審査官の違反審査による認定通知を受ける前に、入国審査官又は入国警備官に対して速やかに本邦から出国する意思がある旨を表明し、Q4の(2)~(5)をすべて満たす場合は、出国命令制度の対象となります。
Q9偽造パスポートを使って入国し、不法滞在していた外国人が自主的に入管局に出頭した場合、「出国命令制度」の適用を受けることができるでしょうか。
A 偽造パスポートを使って日本に入国することは不法入国に当たりますので、出国命令の対象とはならず、不法入国容疑により退去強制手続を執ることになります。
Q10出国命令を受けて一度出国した外国人が、上陸拒否期間経過後、日本に入国し、再度不法残留状態になった場合、その外国人は、出頭すれば、再度出国命令を受けることができるのでしょうか。
A 出国命令の対象者は、過去に退去強制されたり、出国命令を受けて出国したことがない者に限られますので、過去に出国命令を受けて出国したことがある不法残留者は出国命令の対象とはなりません。
出入国在留管理庁「退去強制手続と出国命令制度Q&A」より引用
出国命令制度簡単に言えば重大な退去強制事由に該当していない不法残留者の方が自分から出入国在留管理庁に出頭して自発的に日本から出国するなら退去強制時よりも上陸拒否期間などで有利に取り計らいましょう、と言うような制度です。
出入国在留管理庁的にも自発的に帰国してくれるならいちいち収容や退去強制しなくてもよくなるし…といったところですね。
ただもちろん不法残留者の方がすべてこの出国命令制度に該当するというわけではありません。
やはり自発的な帰国を認めるというためには重大な退去強制事由に該当していたり、窃盗罪などの一定の罪で懲役や禁固刑に処せられたことがあったり、過去に退去強制や出国命令で出国したことがある方だったりする場合は出国命令制度の対象にそもそもなりません。
また、出国命令制度はそもそも引き続き日本に在留し続けたいという方は利用せず、退去強制手続きの中で「在留特別許可」の申請を行うと思われます。
在留特別許可の可能性は低いが、単純な不法滞在で上陸拒否期間を短くとどめたい方の利用が中心でしょうか。
なお、出国命令を受けたにもかかわらず命令上の条件に違反した場合(就労禁止にもかかわらず就労したなど)、出国命令を取り消され退去強制の対象となります。
送還
Q20退去強制令書が発付されている人を収容する理由は何ですか。
A 入国警備官は、退去強制令書が発付された場合には、被退去強制者を速やかに送還先に送還しなければなりませんが、直ちに送還できないときは、主任審査官の判断を得た上で、その者を送還可能なときまで収容することができるとされています。
収容する理由は、送還可能なときまで確実にその身柄を確保するとともに、我が国における在留を否定された者の在留活動を禁止する必要があるためです。
Q21有効な旅券を所持していない被収容者については、どうするのですか。
A 被収容者本人からの申出に基づき、収容されている入国者収容所又は地方出入国在留管理官署の職員が、我が国にある国籍国の外国公館へ旅券発給申請を取り次ぐことになります。
Q22旅券の発給申請にはどのような書類が必要ですか。また、発給までに要する期間はどのくらいですか。
A 旅券の発給申請に必要な書類は発給国の手続により異なります。また、旅券が発給されるまでに必要な期間についても一様ではありません。
Q23自費で出国する場合には、帰国用航空券の購入や帰国便の予約は自由にできますか。
A 航空券の種類によっては予約等の変更ができないものがあり、退去強制手続の進ちょく状況によっては、せっかく準備した航空券を使用できないこともありますので、帰国用航空券を準備しようと考えている方は、あらかじめ、最寄りの地方出入国在留管理官署にご確認ください。
Q24仮放免許可を受けて自費出国することになりましたが、出国予定便に乗り遅れてしまいました。どうしたらいいですか。
A 自費出国許可を受けた方が、搭乗予定便には乗り遅れたものの、出国予定空港に到着している場合は、空港内にある地方出入国在留管理官署に出頭し、その後の対応についての具体的な指示を受けてください。
また、自費出国許可を受けた方が急病等のため、出国予定便に搭乗することができないことが明らかになった場合は、自費出国許可を受けた地方出入国在留管理官署へ連絡を行った上で、対応についての具体的な指示を受けてください。
Q25強制送還とは非人道的な取扱いなのではないですか。
我が国には、令和6年1月1日現在で約7万9,113人の不法残留者がおり、これら不法滞在者の増加は、治安の悪化を招くなど我が国においても大きな社会問題となっております。退去強制(強制送還)は、出入国の公正な管理を図るための措置として、我が国の社会にとって好ましくないと認められる一定の外国人を法律で定められた手続に従って国外に退去させるもので、非人道的な取扱いに当たるものではありません。また、社会にとって好ましくないと認められ、強制的にも我が国から退去させるべき外国人はその事由別に法律上に列挙され、退去強制手続に関して、特に慎重な手続が定められています。
出入国在留管理庁「退去強制手続と出国命令制度Q&A」より引用
強制送還には大きく分けて自費出国、運送業者の負担による送還、国費送還の3形態があります。
逃亡する恐れなどがないと認められた時に限り仮放免許可され自費出国が許可されます。
自費出国も当然に退去強制令書による出国ではありますが、他に比べると運用が柔軟であり、本国や市民権を有する国以外に本人の希望ので送還先を指定することができます。
どういう場合かというと、本国への送還では身の危険がある場合などですね。
ただし自費出国以外の形態による場合でも、主任審査官による送還国の指定が送還される外国人の方の生命に対する差し迫った危険を生じさせる相当程度の蓋然性がある場合などについては判例等もあり、政治的意見等を理由にその生命または自由が脅威にさらされる国への送還は行わないようにするべきと考えられているようです。
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