離婚後も在留カードの期限まで「自動的に今のまま在留できる」と誤解されがちですが、配偶者としての前提が変わるため、まずは届出と今後の在留資格方針の整理が必要です。
このページでは、(1)離婚後すぐ必要な手続、(2)就労ビザへ変更する際の考え方、(3)よくある落とし穴、の順に実務的にまとめます。
全体像:離婚後の在留戦略
結論:まず「届出の期限(14日)」と「取消しリスク(6か月)」を押さえ、そのうえで「就労ビザに乗る働き方・雇用条件か」を検討するのが最短ルートです。
詳細:出入国在留管理庁の運用では、離婚等の届出が必要なのは「日本人の配偶者等」「永住者の配偶者等」「家族滞在」等のうち、配偶者としての身分が在留資格の基礎になっている場合です。「定住者」ビザの方はこの届出義務はありません。
14日以内の届出(配偶者に関する届出)
結論:離婚(または死別)が成立したら、対象者は14日以内に「配偶者に関する届出」を行います。これは入管法第19条の16に定められた法的義務です。
対象者
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「日本人の配偶者等」
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「永住者の配偶者等」
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「家族滞在」
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※「定住者」は対象外です。
届出方法
以下の3つの方法があり、いずれも手数料はかかりません。
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オンライン(電子届出システム):24時間365日可能で最も推奨される。
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窓口持参:最寄りの地方出入国在留管理局へ持参。
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郵送:出入国在留管理局への郵送。
6か月の取消しリスクとは
結論:離婚後、「配偶者としての活動」をしていない状態が6か月以上続くと、在留資格取消しの対象になり得ます(入管法第22条の4)。注意が必要なのはあくまでも取り消しの対象となる、であって、取り消しになるではないことです。6か月以上続くと自動的に取り消しになるわけではありません
詳細
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原則:正当な理由なく6か月以上配偶者としての実体がない場合、在留期限が残っていてもビザを取り消される可能性があります。
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例外(正当な理由):DV被害を受けている場合や、離婚調停・裁判中で決着がついていない場合などは「正当な理由」として考慮されることもあります。
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実務上の目安:この「6か月」は、“変更申請を急ぐべき実務上のタイムリミット”と捉えてください。あくまでも取り消される可能性だからと悠長に構えていることはおすすめできません。
就労ビザへ変更の考え方(要件チェック)
結論:就労ビザへの変更可否は「離婚したから」ではなく、これから従事する仕事が、希望する就労ビザの要件に合うかで決まります。配偶者ビザ時代にはなかった「学歴・職務内容の制限」が復活します。
ルートA:現在の仕事で「技術・人文知識・国際業務」などへ変更
最も一般的なルートですが、ハードルが高いのも事実です。
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学歴要件の復活:配偶者ビザでは学歴不問でしたが、技人国ビザには「大卒」または「日本の専門学校卒」等の要件が必須です。職歴でも代用可能な場合がありますが、現実には厳しいでしょう。
技術・人文知識・国際業務の学歴要件|実務経験での代替も解説 -
職務内容の制限:工場ライン作業、飲食店のホール、清掃などの「単純労働」は、原則として許可されません。
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チェックポイント:
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最終学歴は大卒以上か?(または日本の専門士か?、代替する職歴はあるか)
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今の仕事は、学歴と関連する「専門業務」か?
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単純労働ではないか?
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ルートB:「定住者(離婚定住)」へ変更
就労ビザの要件を満たせない場合の選択肢ですが、難易度は高いです。なおここでの紹介はあくまでも子供のいない場合の離婚定住限定のものであり、子供がいる場合はまた要件に違いが出ます。
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要件:日本人との婚姻期間が「3年以上」あり、日本での生活基盤が固まっていることなどが目安(告示外定住のため要件は個別判断)。
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メリット:就労制限がないため、単純労働でも継続可能。
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デメリット:要件や審査が厳しく、確実性に欠ける。
ルートC:「特定技能」へ変更
飲食や介護、製造業などの現場業務に従事している場合、試験に合格して特定技能ビザへ切り替える方法です。
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メリット:学歴要件がない。
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条件:日本語試験と技能試験の合格が必要など、取得までに時間がかかる場合も。
よくある落とし穴とFAQ
Q. 「定住者」ビザを持っていますが、離婚の届出は必要ですか?
A. いいえ、不要です。
出入国在留管理庁のFAQでも、「定住者」の在留資格をもって在留している方は離婚等をした場合に「配偶者に関する届出」をする必要はないとされています。そのまま在留期限まで日本にいて問題ありません(次回の更新時に身元保証人等の変更が必要になるだけです)。
Q. 離婚届を出してから14日を過ぎてしまいました。どうすれば?
A. 遅れても必ず届け出てください。
期限を過ぎたからといって届出が受理されないわけではありません。放置すると、次回のビザ申請で「届出義務違反」としてマイナス評価(在留期間短縮など)を受ける可能性があります。速やかに住居地管轄の入管へ相談・届出を行ってください。
Q. 就労ビザへの変更はいつ申請すべきですか?
A. 離婚後、準備ができ次第すぐに行ってください。
6か月の猶予があるとはいえ、審査には1~2か月かかります。また、もし不許可になった場合のリカバリー(再申請や出国準備)を考えると、離婚成立と同時に動くのがベストです。
まとめ:離婚後の在留継続に向けたアクションプラン
日本人配偶者との離婚は大きな人生の転機ですが、日本の在留資格制度においては「速やかな手続き」と「次の資格への移行」が何より重要です。
最後に取るべき行動をステップ順に整理します。
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まずは14日以内に届出
「配偶者に関する届出」をオンラインや窓口等で済ませてください。これは法的義務であり、次のビザ審査での心証を守る第一歩です。(※定住者の方は不要) -
6か月以内の方針決定
在留期限がまだ残っていても「6か月」が実質的なタイムリミットと考えて動くのが無難です。今のまま漫然と過ごすと、取消し対象になるリスクが生じます。 -
就労ビザか、定住者か
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学歴・職歴がある方:「技術・人文知識・国際業務」への変更を検討(単純労働はNG)。
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現場仕事の方:「特定技能」への変更を検討。
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婚姻期間が長い(3年以上目安)あるいは養育する子供がいる方:「離婚定住」の可能性を探る。
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離婚後のビザ変更は、個人の経歴や婚姻期間、現在の仕事内容によって最適なルートが異なります。
「自分の場合はどのビザに変更できるのか?」「今の仕事で許可は下りるのか?」と不安な方は、手遅れになる前にビザ専門の申請取次行政書士へ相談し、正確な診断を受けることをお勧めします。
参考リンク集(法務省・出入国在留管理庁)
手続きの詳細は、以下の公式サイトでも確認できます。
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14日以内の届出(配偶者に関する届出)について
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配偶者に関する届出 | 出入国在留管理庁
(対象者、届出様式のダウンロード、郵送先などが記載されています)
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オンライン届出システム
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出入国在留管理庁電子届出システム
(24時間365日、オンラインで届出を行うためのポータルサイトです)
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在留資格の取消しについて
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在留資格の取消し(入管法第22条の4) | 出入国在留管理庁
(どのような場合にビザが取り消されるか、法律の条文と運用基準が確認できます)
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離婚後の定住者への変更について
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「日本人の配偶者等」又は「永住者の配偶者等」から「定住者」への在留資格変更許可申請に対する処分に係る審査要領
(離婚定住等の審査基準について記載されたPDF資料です)
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