ビザ更新(在留期間更新許可申請)のタイミングで、社内異動や昇進により職務内容が変わっている場合、注意が必要です。
同一企業内での部署異動であれば入管への事前届出義務はなく、更新申請までは基本的には入管も変更を把握していません。しかし更新申請書等に新しい職務内容を記載した際、それが「在留資格の範囲外」であると判断されれば、更新が不許可になるリスクがあります。
結論から言えば、職務内容が大きく変わった場合は、変更の経緯や新しい業務の適合性を説明する「理由書」の提出を強く推奨します。法律上の必須書類ではありませんが、審査官の疑念を未然に防ぎ、スムーズな許可を得るための重要な「防衛策」です。
2025年は審査厳格化が進んでいるといわれ、説明不足による不許可事例が増加傾向にあるとの報告もあります。本記事では、理由書の役割、審査官が重視していると思われる「4つの必須要素」、ケース別書き方、NG事例を行政書士が実務ベースで解説します。
なぜ職務内容変更で「理由書」が重要になるのか
結論
職務内容が変わると前回の審査時と前提条件が変わる場合もあるため、審査官は「新しい業務も本当に在留資格の範囲内か?」を慎重に確認します。理由書で自ら正当性を説明しないと、外形的に「単純労働」や「専門性不足」等と誤解され、更新不許可になるリスクがあるからです。
解説:更新審査の実態とリスク
同一企業内での異動であれば原則として入管への事前届出は不要です。しかし、更新申請時に提出する書類(申請書の活動内容詳細など)には、現在の具体的な職務内容を記載する必要があります。
ここで前回許可時と全く異なる業務(例:通訳→営業、SE→管理職)が書かれていると、入管は以下のような疑念を抱く可能性があります。
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「なぜ急に職種が変わったのか?」
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「この新しい業務は、本人の専攻(学歴)と関連があるのか?」
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「実態は人手不足の現場作業(単純労働)ではないか?」
この疑念に対し会社側から何の説明もなければ、入管は書面上の情報だけで判断せざるを得ず、最悪の場合は「在留資格に該当しない」として不許可を下す可能性もあります(おそらくにはいきなりの不許可ではなくなんらかの説明を求めると思われますが)。これを防ぐために、自発的に「理由書」を添付し、職務内容変更の合理性をアピールすることが実務上の定石です。
審査をクリアするための「4つの必須要素」
理由書には、審査官が知りたい以下の4点を盛り込むことがおすすめです。
要素①:変更の経緯(Why)
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簡潔な回答:変更理由を「キャリアアップ」や「事業上の必要性」などのポジティブな文脈で論理的に記述します。「人手不足だから」等の消極的な記載方法は避ける方が無難でしょう。
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解説:入管は変更の必然性を求めます。会社命令(人事異動)か本人希望かを明確にし、「計画的な配置転換」であることを印象づけます。
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OK例:「事業拡大に伴い、通訳経験で培った顧客理解を活かし、マーケティング戦略立案へ異動」
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要素②:新しい業務内容の具体性(What)
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簡潔な回答:肩書きではなく、具体的な日次タスク(企画立案・データ分析等)を列挙し、単純作業(梱包・入力・運搬)が主でないことを証明します。
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解説:抽象的な記述は「名目的な職務」と疑われる可能性があります。1日の業務フローや割合(専門業務80%以上)をなるべく明記し、補助作業はあくまで「専門業務の補完」と位置づけます。
要素③:専攻・経歴との関連性(Link)
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簡潔な回答:大学の専攻や前職のスキルを、新しい業務にどう活かすか、因果関係でリンクさせます。「なぜこの人材でなければならないか」を示します。
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解説:技人国審査の最重要項目です。一見無関係に見える異動(例:文学部卒→品質管理)でも、「統計学の基礎知識を工程分析に活用」といった理論的活用を説明し、理由書で橋渡しを行います。
要素④:業務量と必要性(Volume)
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簡潔な回答:フルタイム相当の専門業務量があることを、組織図や担当案件数で裏付け、「日本人で代替不可」の合理性を主張します。
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解説:週数時間の専門業務だけでは不十分です。「月間○件のプロジェクトを担当」「チーム内での役割」を量化し、正社員として雇用するに値するポジションであることを納得させます。
ケース別:理由書が必須・推奨となる代表パターン
結論
事実上変更申請レベルとなる転職(業種異動)では当然ですが、社内異動(SE→営業等)でも特にカテゴリー3以下の場合は必須と考えた方が安全です。低リスクなのは「前職と全く同じ職種での継続」のみです。
解説:転職して業種・職種が変わる場合
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例:ITエンジニア → 営業職
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対応:IT知識が営業提案に不可欠であることを強調。「技術営業(セールスエンジニア)」としての位置づけを理由書で説明しなければ、専攻等と無関係な文系職への移動で不適合と見なされるリスクがあります。理由書なしは非常に危険と思われます。
解説:社内異動(配置転換・昇進)の場合
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例:現場通訳 → 店舗マネージャー
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対応:部署異動でも実質的な職務変更といえる事例です。マネジメント業務の詳細を記述し、現場作業(レジ打ち等)は「研修・指導の一環」として限定的であることを説明します。キャリアパスの全体像を示すと説得力が増します。
理由書に盛り込む具体的な項目と構成
結論
ケースにもよりますが、A4用紙1-2枚程度。宛名・申請人情報・4段落構成(経緯→業務詳細→関連性→業務量)で作成すると読み手にとってスムーズです。
解説:理由書の基本構成テンプレート
(宛先)法務大臣 殿
(タイトル)理由書
第1段落:変更の経緯
「今回、在留期間更新許可申請を行うにあたり、職務内容に変更が生じましたので、その経緯と詳細をご説明申し上げます。申請人は、入社以来○○業務に従事してまいりましたが、当社の新規事業である××部門の立ち上げに伴い、本人の○○能力を活かすべく、××年×月より同部門へ異動いたしました。」
第2段落:新しい業務内容の詳細
「具体的な業務内容は以下の通りです。
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海外市場の調査・分析(週15時間)
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現地代理店との契約交渉・折衝(週20時間)
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輸出入関連書類の作成・チェック(週5時間)
※なお、商品の梱包や配送等の単純作業には従事いたしません。」
第3段落:専攻・経歴との関連性
「申請人は本国○○大学経済学部において国際貿易論を専攻し、商習慣や契約法務に関する専門知識を有しています。これらの知識は、上記業務の遂行に不可欠であり、大学での専攻と業務内容は密接に関連しています。」
第4段落:業務量と必要性
「当社は現在海外取引先が急増しており、当該業務はフルタイムで恒常的に発生しています。申請人の語学力と専門知識は日本人社員では代替困難であり、当社事業にとって必要不可欠な人材です。」
(結び)以上の通り、申請人の活動は在留資格「技術・人文知識・国際業務」に該当するものと確信しております。何卒許可を賜りますようお願い申し上げます。
会社側書類との役割分担(雇用理由書との関係)
結論
会社作成の「雇用理由書」で採用経緯・役割を、本人作成の「理由書」でキャリア意欲や専門性を補完し、整合性を確保すると良いでしょう。
解説:会社作成の「雇用理由書」で押さえておきたい点
会社視点で「事業上の必要性」と「その外国人に期待する役割」を記述します。「なぜ日本人ではなく彼/彼女なのか(語学力、特定の技術力など)」を差別化して書くのがポイントです。
解説:本人理由書とセットで説得力を高める
両書類の内容に矛盾(例:会社は「専門業務」と書いているのに、本人が「現場で頑張ります」と書いてしまう等)があると致命的です。必ず内容を確認し、双方に齟齬のない内容で信頼性を高めます。
不許可事例から見るNGパターンと注意点
結論
専攻不一致への無説明、現場研修の無限定(期間不明)、業務内容の抽象的記述が良く見られる不許可の原因と思われます。これらは事前の理由書でかなり回避可能となります。
NGパターンと対策
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NG:研修・ローテーション名目の現場作業
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「まずは現場を知るため」と書き、期間やゴールが不明確。
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対策:「研修期間は6ヶ月」「その後は本部で企画業務」と期間と目的を明記する。
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NG:業務内容が抽象的すぎる
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「営業関連業務」「事務全般」としか書かない。
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対策:具体的なタスクレベルまで掘り下げて書く。
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まとめ:職務内容変更のビザ更新は「理由書の質」で結果が左右されることも
職務変更を伴うビザ更新において、理由書は法律上の義務ではありませんが、実務上は「許可を得るためのパスポート」とも言える重要な書類といえます。
「入管にはバレないだろう」「多分大丈夫だろう」という甘い判断は、更新不許可という最悪の結果を招きかねません。上記の「4つの必須要素」を押さえた理由書を添付し、堂々と変更の正当性を主張することが、最も安全で確実な更新戦略です。
作成に不安がある方、専攻との関連付けが難しいと感じる方は、申請取次行政書士に相談し、個別ケースに合わせた理由書の作成サポートを受けることをお勧めします。


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