「コロナ以降、完全リモートになった。会社は東京だが、物価の安い地方に引っ越したい」
「海外の実家から日本の会社にリモートで働けないか」
——外国人社員の方からこうした相談が増えています。
結論から言えば、日本国内でのフルリモート勤務でのビザ更新自体は可能です。 しかし、入管は「本当に出社せずに仕事をしているのか?」「遊んでいるのではないか?」という疑念を持つ可能性があるため、通常の更新より「活動実態の証明」が厳しくなると考えた方がよいでしょう。
さらに会社と居住地が離れている場合、ビザ申請は「会社の所在地」ではなく「自分の住んでいる場所」の入管でしか受け付けてもらえないという管轄の壁があります。
そして別に重要な点として、「海外からのフルリモート」では日本のビザは維持できないという事実もあります。
本記事では、フルリモート外国人社員のビザ更新における「管轄(オンライン申請の活用)」、「活動実態の証明資料リスト」、「海外移住時のリスク」、そしてデジタルノマドビザとの決定的な違いまで、行政書士が実務ベースで徹底解説します。
国内で地方移住する場合のビザ更新(会社:東京、自宅:沖縄のケース)
結論
ビザの更新・変更申請は、原則として「本人の住んでいる場所(住居地)」を管轄する入管で行います。会社が東京でも、あなたが沖縄に住んでいるなら管轄は那覇です。窓口に行くのが大変なら、オンライン申請を活用するのも現実的な解決策であるでしょう。ただしオンライン申請にはいろいろ準備も必要です。
解説:管轄のルールと「オンライン申請」の重要性
多くの外国人が誤解していますが、ビザ更新・変更は「会社の近くの入管」では申請できません。(認定証明書交付申請に限り可能)
管轄のルール
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在留資格認定証明書交付申請(呼び寄せ):会社の所在地または本人の居住予定地、どちらでもOK
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在留期間更新許可申請・在留資格変更許可申請:本人の住居地(住民票のある場所)を管轄する入管のみ
つまり、会社が東京、あなたが沖縄在住なら、窓口申請の場合は「福岡入管那覇支局」へ行かなければなりません。「東京の入管に郵送」は不可です(そもそも郵送申請は認められていない)。
地方移住者が利用したいツール:オンライン申請
窓口に行かずに更新する唯一の方法が「在留申請オンラインシステム」です。
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メリット:24時間どこからでも申請可能。入管に行く必要なし。
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条件:マイナンバーカードを持っていること、カードリーダーがあること。
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注意:マイナンバーカードがない場合、平日に現地の入管窓口へ出頭するか、取次資格を持つ行政書士に依頼するしかありません。逆に言えばオンライン申請に対応している申請取次行政書士事務所ならば全国どの地域の申請にも対応可能です。
フルリモートで疑われる「通勤実態」と活動実態の証明
結論
会社と自宅が離れすぎていると、入管は「本当にその会社で働いているのか?」と疑う可能性があります。対策として、雇用契約書に「在宅勤務を認める」旨の明記に加え、業務日報・チャット履歴・成果物など「働いている証拠」の提出が審査官の心証をえるポイントの一つになります。
解説:フルリモートだからこそ用意しておきたい「活動実態」の立証
通常のビザ更新では、在職証明書と課税証明書・納税証明書があれば十分です。しかし、フルリモートで会社と居住地が遠い(例:東京勤務で北海道在住)場合、入管は以下のような疑念を持つ可能性が高くなります。
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「本当に出社せずに仕事ができているのか?」
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「実は無職で、籍だけ置いているのではないか?(不法就労幇助の疑い)」
入管が納得する疎明資料(追加資料として準備すべきもの)
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在宅勤務規定・リモートワーク合意書
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会社が「出社不要」「完全在宅」を正式に認めていることの証明。
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業務日報・月報
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「何月何日に何をしたか」の記録。
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コミュニケーションツールのログ
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Slack, Teams, Chatwork等で上司・同僚と業務連絡をしている履歴(スクリーンショット等)。
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成果物の記録
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エンジニアならGitHubのコミット履歴、デザイナーなら制作物ポートフォリオ、翻訳なら納品ファイルリストなど。
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オンライン会議の履歴
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ZoomやGoogle Meetのカレンダー履歴で、定期的なミーティング参加を証明。
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これらがないと、「活動実態不明」として更新に悪影響が出るリスクがあります。
「海外からフルリモート」で日本のビザは維持できるか?
結論
維持できません。 日本の就労ビザは「日本に住んで働く」ための許可であり、海外に住んでいるなら日本のビザは不要(=更新不可・取消対象)です。一時的な里帰り(1~2ヶ月)なら許容範囲ですが、半年以上海外にいるとよほどの理由がない限り更新は危険です。
解説:日本のビザは「日本に住むため」のもの
「日本の会社に雇われているなら、どこに住んでいてもビザは維持できる」——これは完全な誤解です。
在留資格の前提
日本の在留資格(ビザ)は、「日本に滞在して活動する」ための許可です。日本にいないなら、在留資格は不要であり、更新する根拠もありません。
海外フルリモートのリスク
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住民票を抜いた時点で、「生活の本拠は日本にない」と見なされます。
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次回のビザ更新時、「過去1年の日本在留実績」がないため、更新の必要性がないと判断され不許可になります。
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再入国許可で出国していても、長期間活動実態がなければ「在留資格取消事由(正当な理由なく3ヶ月以上活動を行っていない)」に該当しうるリスクもあります。
結論:海外移住するなら日本のビザは諦める
「日本の会社で働きながら、海外に住む」場合、日本の就労ビザは返納し、海外から業務委託等で働く形になります(この場合、ビザは当然不要です)。
デジタルノマドビザ(特定活動)との違いと使い分け
結論
技人国ビザ(日本に事業所がある企業勤務・更新可)とデジタルノマドビザ(海外に拠点がある企業勤務・6ヶ月のみ)は全く別物です。日本国内に事業所がある会社に雇われている外国人は、デジタルノマドビザには切り替えられません。
解説:混同されがちな2つのビザ
「フルリモートならデジタルノマドビザで良いのでは?」という誤解が広がっていますが、両者は目的が異なります。
| 特徴 | 技術・人文知識・国際業務ビザ | デジタルノマドビザ(特定活動53号) |
|---|---|---|
| 対象 | 日本国内に事業所がある機関と雇用契約がある外国人 | 外国に拠点がある機関と雇用契約がある外国人 |
| 給与 | 日本円で支払われる | 海外通貨で支払われる |
| 在留期間 | 1年~5年(更新可能) | 6ヶ月のみ(更新不可) |
| 永住への道 | あり | なし |
| 住民票 | 作成可 | 作成不可 |
切り替えは不可
日本の会社に雇われている外国人が「デジタルノマドビザに変更したい」と言っても、雇用元が海外企業でない限り要件を満たさないため、変更は認められません。
人事担当者が注意すべき「通勤手当不正受給」と虚偽申請リスク
結論
社員が会社に「東京在住」と偽り、勝手に地方へ引っ越していた場合、ビザ更新時に住所の食い違いが発覚します。通勤手当を受け取っていれば詐欺(懲戒解雇)となる可能性、引っ越し先の自治体に住所変更届出をしていなければ入管法違反となりかねません。
解説:会社に内緒で引っ越すリスク
ケース:社員が黙って沖縄に引っ越していた
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在職証明書などの会社の記録:「東京都〇〇区在住、通勤手当月2万円支給」
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実態:沖縄県に住んでフルリモート、通勤はゼロ
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ビザ更新申請書:「沖縄県〇〇市(住民票住所)」
→ 入管から会社へ「申請書の住所と会社の登録住所が違いますが?」と確認が入り、発覚。
会社へのダメージと本人のリスク
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通勤手当の不正受給 → 詐欺として懲戒解雇事由になりうる。
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在留状況不良 → 引っ越しから14日以内に「転入届(住居地届出)」を出していなければ、入管法違反(住居地届出義務違反)。
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課税証明書の不整合 → 引っ越し前の自治体と後の自治体で納税記録が分かれ、更新時の書類集めが複雑化。
「会社に言いたくないから黙っていよう」は、自分のビザも、会社の信用も、両方を破壊する最悪の選択となりかねないのでやめておきましょう。
まとめ:フルリモートの自由には「証明責任」が伴う
フルリモート勤務での就労ビザ更新は可能ですが、入管から「働いているふり」を疑われないよう、以下を徹底するようにしましょう。
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国内でのフルリモート(地方移住)
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ビザ更新は「自分の住んでいる場所」の管轄入管へ。オンライン申請が望ましいが、準備が面倒なことに注意。オンライン申請に対応している申請取次行政書士の利用も検討。
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在宅勤務規定、業務日報、チャット履歴など「活動実態」を示す追加資料を必ず準備するとよい。
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会社に住所変更を必ず報告し、通勤手当の不正受給をしない。
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海外からのフルリモート
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日本のビザは維持できない(更新不可)。
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一時的な里帰り(1~2ヶ月)なら許容範囲だが、半年以上海外にいると更新は危険。
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デジタルノマドビザとの混同に注意
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日本にある企業勤務なら技人国ビザのまま。デジタルノマドは海外にある企業勤務者専用。
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フルリモートでビザ更新に不安がある方、既に遠方へ引っ越してしまった方は、更新申請前に一度申請取次行政書士に相談し、「活動実態の説明書(理由書)」の作成や申請戦略を練ることも検討するとよいでしょう。



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