「転職先の人事から『就労資格証明書を取ってください』と言われたが、これは義務なのか?」
「審査に1~3ヶ月かかるらしいが、待っていたら入社に間に合わない」
——技術・人文知識・国際業務ビザ(技人国)で転職する外国人社員と、採用担当者から、こうした相談が後を絶ちません。
結論から言えば就労資格証明書の取得は法律上の義務ではなく、任意です。 しかし、「任意だから不要」と安易に判断するのは危険です。
なぜなら就労資格証明書を取らずに転職し、数年後のビザ更新時に「転職先の業務内容が在留資格に適合していない」と判断され、更新不許可→即退職・帰国になるケースも実際に発生しているからです。企業側も最悪「不法就労助長罪」のリスクにさらされる可能性も否定はできません。
本記事では就労資格証明書の役割、取得するメリットとデメリット、「取らなくてもよい(リスクが低い)ケース」と「取るべきケース」の判断基準、そして審査期間中の「見切り発車」入社の可否まで、行政書士が実務ベースで徹底解説します。
就労資格証明書とは何か(役割と法的位置づけ)
結論
就労資格証明書は入管法19条の2に基づき、「あなたの在留資格で、この新しい会社・この職務内容で働けるか」を出入国在留管理庁が文書で確認する制度です。取得は任意ですが、転職先での業務内容が在留資格と適合しているかに不安がある場合の「お墨付き」になります。
解説:ビザそのものではなく「適合性の証明」
多くの人が勘違いしていますが、就労資格証明書は「新しいビザ」ではありません。
就労資格証明書の正確な定義
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現在持っている在留資格(例:技術・人文知識・国際業務)の範囲内で、特定の新しい勤務先・職務内容で働けるかを、入管が個別に判断して文書で確認するもの。
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「ビザの種類は変わらない」が、「その会社・その仕事内容が在留資格に合っているか」を事前にチェックしてもらう制度です。
誰が、いつ使うのか
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主な利用シーン:在留資格の種類を変更せずに転職する場合(例:技人国のままA社からB社へ転職)
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申請タイミング:転職前(内定後)でも、転職後でもOK
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ベストタイミング:内定後〜退職前(現職在籍中に申請準備をしておくのがスムーズ)
取得するメリット:本人と企業、それぞれの視点
結論
外国人本人には「次回の更新時の不許可リスク軽減」、企業には「更新不許可による退職」「不法就労助長罪の回避」というメリットがあります。どちらも「保険」としての価値です。
解説:外国人本人にとってのメリット
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転職先での業務内容が適合していると事前確認できる
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「この仕事、本当にビザで認められるのか?」という不安が解消されます。
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後から「実は不法就労だった」と言われるリスクを排除できます。
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次回の在留期間更新がスムーズになる
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更新時、就労資格証明書があれば「転職先での審査は一度済んでいる」扱いになるため、会社関係書類の一部が省略され、審査が早まることがあります。
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永住申請時の説明が楽になる
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転職歴が多い場合、永住申請時に職務の適法性が問われることもありますが、証明書があれば「入管のチェック済み」として強力な証拠になります。
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解説:採用企業にとってのメリット
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不法就労助長罪のリスクヘッジ
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入管法73条の2により、不法就労をさせた雇用主は「懲役5年以下・罰金500万円以下」の処罰対象です。
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「在留資格でこの仕事をさせてよいか」を行政の見解として残せることは、企業防衛の最強手段です。
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将来の更新不許可による突然の離職を防ぐ
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転職後数年経ってから「ビザ更新不許可」となれば即戦力が突然離脱し、採用コストが無駄になります。事前確認でこのリスクを回避できます。
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取らなくてもよい(リスクが低い)ケース
結論
業種・職種が前職とほぼ同じで、学歴との関連性も明確、会社側にも新設法人であったり業務の必要性が証明しづらいなどの要因がない場合は、就労資格証明書なしでも比較的リスクは低いです。ただし「100%安全」ではありません。
解説:「取らずに転職」が比較的許されるパターン
以下の条件がすべて揃う場合は、就労資格証明書なしでもリスクが比較的小さいと言えます。
低リスクケース
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業種・職種が前職とほぼ同じ(例:メーカーの社内SE → 別メーカーの社内SE)
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学歴(専攻)と職務内容の関連性が明確で、専門性に疑義がない
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転職先が大企業(カテゴリー1・2)で、入管の信用が高い
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転職後すぐ(数ヶ月以内)に在留期間更新のタイミングが来るため、更新申請でまとめて審査できる
注意点
それでも「100%安全」ではなく、あくまでリスクが相対的に低いゾーンです。転職先の業務内容に少しでも不安があるなら、取得を検討すべきと思われます。また業務内容に問題がないとしても、新設法人であったり、業績が思わしくない、あるいはその外国人の業務の必要性に疑問を持たれそうな場合についても同様です。
強く取得をお勧めるケース(取らないと危険かもゾーン)
結論
業種が大きく変わる、職務内容がグレー、会社規模が小さいあるいは新設法人の場合は、就労資格証明書なしでの転職は非常に危険であると思われます。数年後の更新不許可で帰国になる可能性もがあります。
解説:「内容が変わる」+「グレー要素」がある場合
以下のどれかに該当する場合は、就労資格証明書取得を強く推奨します。
高リスクケース
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業種が大きく変わる(例:通訳 → 営業 → 製造業の生産管理)
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職務内容が専門性ないし必要性に乏しい(事務+雑務・現場作業が混在している、必要性も乏しい)
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大卒だが専攻と仕事内容の関連性が弱い(例:文学部卒で工場の品質管理)
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会社規模が小さい(カテゴリー4企業・新設法人)
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配偶者や子ども(家族滞在)の在留も、自分の就労状況に連動している
取らない場合の「最悪シナリオ」
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就労資格証明書なしで転職(例:通訳→営業)
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数年間勤務(実態は現場での商品説明・配送手伝いが多い)
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在留期間更新申請で入管が「この仕事は技人国ビザに該当しない」と判断
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更新不許可 → 即座に退職・帰国を迫られる
→ 企業は「不法就労助長」を疑われ、本人は在留資格を失う。これが最も恐ろしい結末です。
審査期間・タイミングと「見切り発車」入社の可否
結論
就労資格証明書の審査には1~3ヶ月かかります。申請中に転職先で働き始めること自体は違法ではありませんが、「もし入管の判断がNGだった場合は不法就労だった」と評価されるリスクがあります。
解説:審査期間の目安と「見切り発車」のリスク
審査期間
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標準処理期間:1~3ヶ月程度
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転職を伴う場合、実質的には「ビザ変更審査」と同じくらい時間がかかります。
証明書申請中に入社してもよいのか?
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法的整理:現在の在留資格の範囲内であれば、交付前に働き始めること自体は適法です。
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リスク:「もし入管の判断が不交付(NG)だった場合、遡って不法就労状態だったと評価されうる」リスクがあります。
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実務的判断:業務内容が明らかに適合しているなら見切り発車もアリですが、グレーな場合は許可が出るまで待つか、雇用契約に「証明書交付を条件とする」解除条項を入れるのが安全です。
申請の実務:必要書類・費用・誰が段取りするか
結論
申請には申請書・在留カード・雇用契約書・職務内容説明書などが必要で、手数料は2,000円(窓口)です。制度上は本人申請ですが、実務的には企業主導で取得を提案するのが望ましいといえるでしょう。
解説:基本の必要書類と2025年改定手数料
手数料(2025年4月1日改定)
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窓口申請:2,000円(収入印紙)
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オンライン申請:1,600円(収入印紙)
※以前の「1,200円」「900円」等の情報は古いので注意してください。
主な必要書類
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就労資格証明書交付申請書
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在留カード、パスポート
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採用・招へい理由書・転職先の会社書類(登記簿謄本、決算書、会社案内など)
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雇用契約書(内定通知書)
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職務内容説明書(具体的かつ詳細に業務内容を記載したもの)
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本人の履歴書・卒業証明書
誰がイニシアチブを取るべきか
制度上は外国人本人が申請しますが、企業がリスクヘッジのために「取得を推奨」し、必要書類の準備をサポートするのが実務的には望ましいと思われます。
まとめ:就労資格証明書を「コスト」ではなく「保険」として見る
就労資格証明書は法律上の義務ではありませんが、「業種・業務内容が変わる転職」ではほぼ必須の保険と考えると負担感を軽減できるでしょう。
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残存期間:ビザ更新まで1年以上あるなら取得を検討
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仕事内容の変化度:業種・職種が大きく変わるなら必須
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学歴との関連性:専攻と仕事内容の関連が薄いなら必須
「審査に時間がかかるから」「数千円かかるから」と後回しにした結果、数年後に取り返しのつかない事態になるケースを避けるためにも、迷ったら取得をお勧めします。
不安な場合は、申請取次行政書士に相談して「自社のケースでの必要性」を診断してもらうのが確実です。



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