日本で会社を設立し、外国人経営者として活動するための「経営管理ビザ」。その取得には様々な要件がありますが、特に重要なのが事業規模の要件です。「資本金500万円を用意すべきか、それとも従業員を2名以上雇うべきか…」多くの申請者がこの選択に悩みます。
この記事では経営管理ビザの事業規模要件について、法務省・出入国在留管理庁の情報を基に、各選択肢のメリット・デメリット、業種別の考え方、そして見落としがちな注意点まで、分かりやすく徹底解説します。最適な事業規模を選択し、スムーズなビザ取得を目指しましょう。
経営管理ビザの「事業規模要件」とは?
経営管理ビザを取得するためには申請する事業が一定の規模を満たしている必要があります。入管法では、以下のいずれか一つに該当することが求められます(法務省外国人経営者の在留資格基準の明確化についてより)。
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その経営又は管理に従事する者以外に日本に居住する二人以上の常勤の職員(※)が従事して営まれるものであること。
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資本金の額又は出資の総額が五百万円以上であること。
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これらに準ずる規模であると認められるものであること。
(※)常勤職員とは、日本人、特別永住者、永住者、日本人の配偶者等、永住者の配偶者等、定住者を指します。要するに日本人か身分系のビザを持っている外国人の方、ということです。
この3つのうち、いずれか1つを満たせば事業規模の要件はクリアできます。では、それぞれの選択肢を詳しく見ていきましょう。
選択肢1:資本金の額又は出資の総額が500万円以上
これは最も多くの申請者が選択する方法です。
メリット:
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従業員を雇用する手間や人件費の負担を初期段階で避けられる。
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事業計画の自由度が高い。
デメリット:
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500万円の資金調達が必要。
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資本金の出所証明が厳格に審査される(自己資金、借入、贈与など、形成過程を客観的資料で立証する必要がある)。
注意点:
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単に500万円を用意するだけでなく、そのお金がどこから来たのか(預貯金の履歴、親族からの借入れであれば金銭消費貸借契約書と送金記録など)を明確に示す必要があります。「見せ金」は絶対にやめてください。
選択肢2:常勤職員を2名以上雇用
日本に居住する適格な常勤職員を2名以上雇用する方法です。
メリット:
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資本金500万円を用意する必要がない(ただし、事業運営資金や従業員の給与支払能力は別途審査されます)。
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事業開始当初から人的リソースを確保できる。
デメリット:
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適格な常勤職員(日本人、永住者等)を2名以上見つけ、雇用契約を結ぶ必要がある。
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社会保険への加入義務が生じ、人件費や法定福利費の負担が大きい。
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採用活動や労務管理の手間がかかる。
注意点:
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「常勤」とは、フルタイム勤務で、社会保険に加入している正規雇用が基本です。パートタイムやアルバイトはめられません。
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雇用契約書、労働条件通知書、社会保険の加入証明など、雇用関係を証明する書類が多数必要です。
選択肢3:「これらに準ずる規模」とは?
これは上記1または2と同程度の事業規模であると客観的に認められる場合です。具体的に法令で定められているわけではなく、ケースバイケースで判断されるため、ハードルは高いと言えます。
考えられる例:
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資本金250万円程度 + 常勤職員1名雇用
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個人事業として開始し、近い将来に従業員を雇用する具体的な計画と能力がある(ただし、事業内容や実績による)。
注意点:
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この選択肢を選ぶ場合は、なぜ「準ずる規模」と認められるのか、事業計画書などで詳細かつ具体的に説明し、客観的な資料で裏付ける必要があります。
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安易な選択は不許可リスクを高めます。申請取次行政書士など専門家への相談が推奨されます。
【比較】資本金500万円 vs 従業員2名雇用
比較ポイント | 資本金500万円以上 | 常勤職員2名以上雇用 |
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初期費用 | 〇 500万円の調達が必要 | △ 従業員給与・社会保険料の継続的支払い |
資金調達の難易度 | △ 出所証明が複雑 | 〇 資本金準備は不要(運転資金は必要) |
人的リソース | × 自身で全て行うか別途採用 | ◎ 事業開始時から2名確保 |
事務負担 | 〇 比較的少ない | × 労務管理・社会保険手続きが煩雑 |
審査の明確性 | ◎ 金額基準が明確 | 〇 雇用実態の証明が必要 |
おすすめ業種 | IT、コンサル、小規模貿易、一人社長型 | 飲食店、小売店、一定規模の製造業など |
業種別の最適な事業規模の選び方
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IT・コンサルティング・フリーランス型ビジネス:
初期の固定費を抑えたい場合や、一人または少人数で事業を回せる場合は「資本金500万円」が現実的です。 -
飲食店・小売店などの店舗型ビジネス:
経営者自身が主に現場作業に従事することは経営管理ビザの活動として認められにくいため、「常勤職員2名以上雇用」を選択する方がスムーズな場合が多いです。従業員がいないと店舗運営が成り立たないことを示す必要があります。 -
貿易業・卸売業:
事業規模や取扱量によります。小規模であれば「資本金500万円」、ある程度の規模で事務所や倉庫に従業員が必要な場合は「常勤職員2名以上雇用」も検討します。 -
製造業:
設備投資に加え、作業員が必要となるため、「常勤職員2名以上雇用」が適している場合が多いです。
事業規模が大きい方が審査に有利?審査のホント
「資本金が1000万円なら有利?」「従業員を5名雇えば確実?」といった質問がありますが、必ずしも事業規模が大きければ有利というわけではありません。
入国管理局が重視するのは、事業の実現可能性、継続性、そして適法性です。過大な事業計画や、身の丈に合わない投資・雇用は、かえって事業の不安定さを露呈する可能性があります。
例えば、資本金が多くてもその出所が不明瞭であれば意味がありませんし、従業員を多く雇っても給与支払いが滞れば事業の継続性は疑われます。
重要なのは、事業計画と事業規模のバランスが取れていること、そしてそれを客観的な資料で証明できることです。
見落としがちな重要ポイントと失敗事例
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失敗事例1:名ばかりの従業員
友人に頼んで籍だけ置いてもらい、実質的な勤務実態や給与支払いがなかったため、不許可。 -
失敗事例2:資本金出所不明
親族から現金で500万円を借りたが、借用書や送金記録がなく、タンス預金からの持ち出しと説明したため、出所不明瞭で不許可。 -
失敗事例3:事業所と事業規模のミスマッチ
従業員2名雇用で申請したが、確保した事務所が非常に狭く、2名が業務を行うスペースがないと判断され、事業の実現性に疑義が生じ不許可。
審査は書類が基本です。 入国管理局の在留資格の審査では、原則として面接は行われません(必要に応じて電話調査や追加資料の提出が求められることはあります)。そのため、基本的に提出書類だけで事業の全てを明確に説明し、審査官の疑問を解消する必要があります。
よくある質問(FAQ)
Q1: 資本金500万円は、ビザ取得後すぐに引き出して使っても良いですか?
A: 会社の運転資金や設備投資など、事業目的で使用するのは問題ありません。しかし、設立後すぐに個人的な用途で引き出すなど、「見せ金」と疑われるような行為は絶対に避けるべきです。
Q2: 常勤職員は、いつまでに雇用契約を結べば良いですか?
A: ビザ申請時に雇用契約が締結されており、勤務開始(または開始予定)であることが明確である必要があります。
Q3: 「準ずる規模」で申請したいのですが、可能性はありますか?
A: 可能性はゼロではありませんが、非常に個別具体的な判断となります。「なぜ他の2つの要件を満たせないのか」「それでも事業が安定継続できるのか」を合理的に説明する必要があります。事前に専門家(申請取次行政書士など)に相談することを推奨します。
Q4: 資本金500万円と従業員1名雇用ではダメですか?
A: もちろん認められる可能性があります。ただし、資本金の出所証明と従業員の雇用証明、そしてその組み合わせで安定した事業運営が可能であることを示す必要は当然にあります。
まとめ:最適な事業規模で、経営管理ビザ取得へ
経営管理ビザの事業規模要件はご自身の事業計画、資金状況、業種特性などを総合的に考慮して、最適な選択肢を見極めることが重要です。
選択のポイント
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無理のない計画か?: 事業計画と事業規模が現実的に合致しているか。
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証明は万全か?: 選択した要件を客観的資料で明確に証明できるか。
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継続性は見込めるか?: その事業規模で安定的に事業を継続できるか。
どの選択肢を選ぶにしても、入念な準備と正確な書類作成が不可欠です。判断に迷う場合や、手続きに不安がある場合は、経営管理ビザに詳しい申請取次行政書士などの専門家に相談することをおすすめします。
参考:法務省・出入国在留管理庁 情報ページ
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在留資格「経営・管理」について(出入国在留管理庁):
https://www.moj.go.jp/isa/applications/status/businessmanager.html -
在留資格「経営・管理」に係る提出書類(出入国在留管理庁):
https://www.moj.go.jp/isa/content/001404127.pdf -
外国人経営者の在留資格基準の明確化について(出入国在留管理庁):
https://www.moj.go.jp/isa/applications/resources/nyukan_nyukan43.html
経営管理ビザ申請の事業所要件について知りたい方は、以下のページをご覧ください。
➡️ 経営管理ビザの事業所要件について知りたい方はこちら:[経営管理ビザの事業所要件ガイドを詳しく見る]
当事務所の初回無料相談について知りたい方は、以下のページをご覧ください。
➡️ 行政書士かつみ法務事務所の初回無料相談について知りたい方はこちら:[ビザ申請手続き無料相談を詳しく見る]
➡️ 行政書士かつみ法務事務所のビザ申請+会社設立サポート詳細について知りたい方はこちら:[経営管理ビザ・会社設立【京都】を詳しく見る]
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