「AIが翻訳してくれるなら、わざわざ外国人を雇わなくてもいい。」
会社でそんな判断が下される日が、あなたの予想より早く来るかもしれません。あるいはすでに来ているかもしれない。
給料は変わらない。仕事はある。ただ、雇用形態だけがひっそりと「契約社員」から「アルバイト」に変わっていた──。
そのとき多くの外国人労働者は、「年収は問題ないし、フルタイムで働いている。大丈夫だろう」と思います。
実はそれが命取りになりかねないのです。
入管(出入国在留管理庁)が「技術・人文知識・国際業務(技人国)」の更新審査で見ているのは、年収や勤務時間だけではありません。「この外国人は、いつでも切り捨てられる存在か否か」──これが実はかなり大きな審査ポイントです。
本記事ではAI普及に伴い急増している「技人国ビザ更新危機」の実態と、取りうる3つの生存戦略を、実際の相談事例を基に解説します。
第1章:なぜ「アルバイト契約」だと更新できないのか
入管審査の「本音」
入管が就労ビザ(技人国)の更新を認める際の基準は、法律上こう定められています。
「専門的・技術的分野に属する業務に、安定的かつ継続的に従事すること」
「安定的かつ継続的に」──この言葉の意味を、入管はまず契約書から判断します。業務内容や年収だけではありません。「この契約に基づいて、将来にわたって雇用が保証されているか」を、雇用契約書の文言から読み取るのです 。
アルバイト契約には、正社員にはあり得ない条項が含まれていることがあります。
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「業務が消滅した場合は解雇できる」
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「会社の判断により、シフトを変更・削減できる」
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「3ヶ月ごとの契約更新(更新の保証なし)」
これらの条項を見た審査官は、こう判断する可能性が高いです。
「この外国人は、会社の都合でいつでも切り捨てられる調整弁だ。つまり、専門職(プロフェッショナル)として必要とされているわけではない。」
技人国ビザは日本経済の発展に貢献する「専門職」のためのビザです。「いつでも解雇できる存在」にそのビザを更新することは、制度の趣旨に反する──これが入管の建前であり、実務上の不許可理由となりえるのです。
実際の相談事例から
ある外資系企業で翻訳・通訳業務に従事していたAさんは、会社の事情を理由に雇用形態が「契約社員」から「アルバイト」に変更されました。
Aさんの新しい契約の中身:
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雇用形態:アルバイト(アルバイト・パートタイム就業規則適用)
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業務内容:翻訳(明記あり)
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時給:1,400円
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勤務時間:週40時間(月収約224,000円)
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契約期間:6ヶ月
一見すると「問題なさそう」に見えます。しかし、この契約には致命的な欠陥がありました。
就業規則に「業務量の減少により勤務時間を削減できる」「業務自体を廃止した場合解雇できる」という条項があったのです。
翻訳業務はAI導入により急減していると指摘されています。「今は週40時間あるが、3ヶ月後には20時間になるかもしれない。6ヶ月後には契約が更新されないかもしれない。」
入管がそう懸念し更新を不許可とするのは、現在の審査傾向から見てかなり蓋然性が高いと思われるのです。
第2章:今すぐ確認!あなたの契約書「危険度チェック」
以下の項目を、手元の雇用契約書・就業規則で確認してください。
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□ 雇用形態が「アルバイト」「パート」と明記されている
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□ 適用される就業規則が「パートタイム用」「アルバイト用」となっている
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□ 契約期間が1年未満(3ヶ月・6ヶ月など)である
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□ 解雇事由に「業務の縮小・消滅」「会社の経営判断」が含まれている
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□ 勤務時間・シフトを会社が一方的に変更できる条項がある
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□ 社会保険(健康保険・厚生年金)に加入していない
判定
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0個: 現状は問題いと思われる。ただし今後の業務内容の変化に注意。
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1〜2個: 黄色信号。次回更新時に追加資料(雇用の安定性を説明する理由書等)の提出を求められる可能性大。
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3個以上: 赤信号。このまま更新申請をすると、不許可になる可能性がかなり高い。今すぐ次のステップを検討することが望ましいでしょう。
第3章:生き残るための3つの緊急回避ルート
「契約書が危険」あるいは「すでにアルバイト化してしまった」と気づいたとき、取るべき対策は以下の3つがメインとなります。ご自身の状況に合わせて検討してください。
ルート①【正攻法】:現ビザのまま「転職」+就労資格証明書
最も確実で、キャリアを傷つけない王道ルートです。
現在の在留カードの期限が残っている限り、あわててビザの種類を変える必要はありません。
戦略のポイント:
入管法上、失業中であっても「求職活動」を行っていれば、直ちに在留資格は取り消されません(3ヶ月ルールへの対応は後述)。
現在の「技術・人文知識・国際業務」のまま正社員として雇用してくれる別の会社へ転職し、次回の更新を安全に迎えるのがベストです。
具体的な手順:
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すぐに転職活動を始める: 現在のアルバイト(時短)勤務を続けながら、水面下で次の正社員求人を探します。
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「就労資格証明書」を活用する: 転職先が見つかったら、その職務内容が現ビザで問題ないかを入管に確認してもらう「就労資格証明書交付申請」を行います。これがあれば、次回の更新時に「不適合」とされるリスクを事前に排除できます。
注意点:
アルバイト期間が長引くと、次回の更新審査で「在留状況不良」とみなされる恐れがあります。在留期限の満了日に関わらず、「3ヶ月以内」を目安に次の就職先を決めるスピード感が求められます。ただ、現在の翻訳通訳の置かれた現状からなかなか次の職を見つけるのが難しいのも事実です。これからはより幅広く自身の在留資格でできる仕事を常に見ていく必要がありそうです。
ルート②【現実路線】:特定技能への「転換」
「翻訳の仕事自体が見つからない」という場合、在留資格ごと「特定技能」へ転換するルートです。
外食・宿泊・農業・建設・介護など、人手不足が深刻な現場業務への転職と同時に、技人国から特定技能(1号)へ変更します。
メリット:
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許可の可能性が高い: 技人国(専門職)の要件を満たせない場合でも、特定技能(現場職)の要件なら満たせるケースが多いです。
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雇用の安定: 人手不足業界のため、シフト削減などのリスクが比較的低いです。
デメリット:
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試験が必要: たとえN1保持者でも、各分野の「技能試験」の合格が必須です。
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キャリアの変更: 翻訳者としてのキャリアはいったん中断することになります。
「プライドを捨てて現場で働きながら、再起の機会を待つ」という現実的な判断が、日本に残り続けるための命綱になります。
ルート③【最終手段】:特定活動(就職活動)への変更
※注意:このルートは「留学生の就活ビザ」とは全く別物です。非常にハードルが高い「例外措置」と考えてください。
在留期限が迫っているのに再就職先が決まらない場合、やむを得ず検討するルートです。
しかし、単に「仕事が見つからない」という理由だけでは許可される可能性は低いです。
許可されるための絶対条件:
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「会社都合」での退職であること(倒産、リストラ、雇い止め等)。
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それを公的に証明できること(ハローワーク発行の受給資格者証で「会社都合」のコードが入っている等)。
リスク:
入管の審査は厳格です。「自己都合退職」とみなされれば不許可となり、そのまま帰国(出国準備)を余儀なくされます。行政書士などの専門家を入れずに申請するのは極めて危険です。
おわりに:AIに仕事を奪われても、日本での生活まで奪われないために
翻訳・通訳という仕事がAIに代替されていくのは、止めることのできない時代の流れとなりつつあります。
しかしビザの喪失は仕事を失うよりもはるかに深刻な結果をもたらします。住む場所を失い、パートナーと離れ、長年積み上げてきた日本での生活のすべてを失うことになりかねません。
「まだ大丈夫」という感覚が、最も危険です。
契約書の文言に違和感を覚えたその瞬間が動き始めるべきタイミングであるといってよいでしょう。申請取次行政書士への相談は問題が起きてからではなく、「何かおかしい」と感じた時点で行くことをお勧めします。ギリギリでは打つ手が限られてしまうことが多いのが現実だからです。
在留資格の問題は、手遅れになる前であれば打てる手が見つかる事が多くあります。


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